精神科関連書籍・映画

医学部生おすすめ精神科疾患を扱った映画・疾患解説

精神疾患関連映画の悪いところ

最初に言います。精神疾患を扱った映画は、良くない物が多いです。「精神疾患患者を異常者・変人・奇人・犯罪者として扱う」物が多く、現実に即していないことも多いからです。(実際の精神科患者の犯罪率は、ソウデナイヒトに比べて低いのに!!!) そういう、「精神疾患=異常」のイメージ先行の映画は、精神疾患のイメージを悪くして、最悪だと思います。患者に悪い影響を与える(患者が社会復帰しにくくなる)。それは医療経済的にも、良くないです。

統合失調症

統合失調症は

  • 陽性症状(通常みられないものが現れる)
  • 陰性症状(通常存在するはずの感情や行動の欠如)
  • 認知機能障害

に代表される病気です。

診断基準は以下5つの症状のうち5つが6ヶ月以上続くことです。

  • 妄想
  • 幻覚
  • 連合弛緩
  • 緊張病症状
  • 陰性症状

精神疾患の代表例と言える病気です。

ビューティフル・マインド

おそらく「精神科疾患に関する映画」といって真っ先に出てくる物はこれでしょう。ノーベル賞を受賞した経済学者ジョン・ナッシュ(実在する人物)が主人公のストーリーです。統合失調症の勉強にもなり、かつ、ストーリー姓も素晴らしい作品です。

「彼は統合失調症だ」と睨んでいても、映画の途中までなかなか分かりません。(僕の精神科知識が乏しいこともあり、途中までは「統合失調症ではなく、発達障害なのではないかと思って見てました。)途中まで見て、そうかそういうことかとなったらもう一度見返したくなる映画です(ヒントは、物語途中の少女の成長)。

  • 統合失調症の幻覚(この場合は幻視)はこういうものなのかということ
  • 抗精神病薬(統合失調症の薬)で勃起不全が起きること
  • 様々なストレスから患者は薬を自己中断してしまいやすいこと
  • 患者とその家族の苦悩

など様々な勉強になります。ストーリーとしてもかなり感動させられる物で、さすがアカデミー賞は違うな感じました。彼の統合失調を理解したら、もう一度最初から見直すと、違った面白さがります。

強迫性障害

強迫性障害は、強迫観念にとらわれ強い不安が商事、脅迫行為を繰り返す物です。

  • 強迫観念:自分の意思に反する不合理な観念
  • 脅迫行為:強迫観念を解消しようとするために行う行動

以上2つのうち1つがあれば診断されます。

特徴としては、病識があり、不合理さは分かっていて、治療意欲があることです。つまり、「こんなこと、やらなくてもいいのは分かっているけど、やってしまうの!」という状態です。

八つ

強迫性障害を如実に表している映画と言えば、「八つ」に間違いありません。かなり単調な映画になります。かなり痛々しい映画です。Amazonでとばしとばし見ることをおすすめします。(僕は勉強のためと思い全部見ましたが、興味ない人からしたら苦痛かもしれません。)

  • 主人公は、すべての行為において、[8]がある」ということを意識する
  • 本人には病識があり、治したいと心から願っている(のに直せない)

以上を意識すると勉強になると思います。かなり痛々しい映画で、悲痛に満ちていますが、これこそが、精神疾患に困っている人の現実でもあるのかなと感じました。

ガス灯症候群

街灯・電灯のイラスト(照明)

「ガス灯症候群」は、精神科関連疾患としては、かなりマイナーなものです。(というより、厳密には当人の病気ではありません。)「ガス灯症候群」本当は精神疾患ではないのに、周囲の人の欺瞞により本人が自身を精神疾患だと思い込むことを言います。

「なんでわざわざ、周囲の人は、病人を仕立て上げるの?」と憤慨する人もいるかもしれません。精神科疾患はその診断自体が、かなり当人の社会生活に大きな影響を与えます。そのため、それを悪用しようとする人が出てきます。

例えば、認知症。認知症が進行したときに書いた遺書は無効になります(本人の意思能力が失われており意思表示は無効とされる)。仮に高齢者のAさんが「全財産を次男に与える」と遺書を書いたとします。憤慨した長男は、親に「最近、お父さん、物忘れひどくなったから、病院に行こう。」と嘘をつき、病院に行きます。認知症は病識(自覚)に乏しい病気のため、家族の言葉が、そのまま診断に直結しがちです。長男が病院で「うちの親父は最近物忘れがひどくて」と言えば、病院は認知症を疑います。安易に認知症の診断をしてしまうと、前述の遺書はすべて無効になってしまうのです。

以上の例のように、精神科疾患の診断は社会的に与える影響が大きいです。そのため、医師はover diagnosis をしないように細心の注意を払う必要があります。

また、上記のような悪意がなくても、ガス灯症候群は起きえます。高齢者になると、どうしても物忘れは増えます。周囲は、それを「ああ、ついに彼も認知症になったか」と思い込んでしまいます。医者でも認知症の診断はかなり難しいですから、素人が間違えて判断してしまうことは普通にあり得ます。「彼は認知症である」と思い込んでいると、彼のミスをよく覚えていたり、病院で話すときは大げさに話してしまいます。(「彼は認知症」と思い込んでいるため、仕方のないことです。)そのような経緯から、ガス灯症候群が生まれてしまうこともあります。

ガス灯

さて、このような、「ガス灯症候群」。この病名は「ガス灯」という映画から、その映画の名前から直接できた名前です。(映画を元として、病気の名前がつけられているのは非常に面白いです。この映画からガスライティング(英: gaslighting)という心理的虐待の用語まで生まれています。)

映画は1940年代の物で、白黒ですがAmazonで無事に見ることができます。

19世紀末、霧深いロンドン。歌手の叔母が殺され、その財産を相続したポーラはイタリアで音楽家のグレゴリーと恋におち結婚。彼の望みで叔母の邸宅に住むが、次第に身辺に奇妙なことが起こり始め発狂寸前まで追い詰められる。

Amazon prime videoより

医療経済学

これらの記事にあるように、現在精神科分野では、患者が病院に長期入院するのではなく、地域社会で見守っていこうという流れがあります。(日本はこの流れに遅れていて、精神科病床数が世界で圧倒的に多いです。)

人生ここにあり

イタリアの精神病院廃止政策に関するイタリア映画です。イタリアは精神科医療制度については、「古いやり方(精神病院での入院医療)」から「新しいやり方(地域中心型精神医療)」へ劇的に改革を進めた国として有名です。(だからこそ、映画にまでなった)

本映画は、主に閉鎖病棟にいた人たちの、就労支援の成功とミスを描いた映画です。かなりコメディカルに映画は作られており、かなり面白く見ることができます。そして映画の中には、考えさせられるシーンも多かったです。

  • 患者が地域社会に入り込むことに抵抗を感じる精神科医(「病院にいた方が良いと主張」)
  • 精神科患者を馬鹿にした医療従事者
  • 精神科患者には仕事があまり渡ってこない現実
  • 精神科患者が社会になじめない場面

以上のようなものも描かれています。映画全体として暗いイメージはないですが、実際医療制度改革を起こしているときは、こういう障壁はかなり大きな困難だったのではないかと感じました。