「精神疾患」というと、マイナスのイメージが広く持たれている印象です。
- 何か普通の人と違う
- 危ないんじゃないの?
それは誤ったイメージです。ですが、マイナスイメージが先行して、法改正が行われたり、しています。今回は、「精神疾患と事件・法改正」について書きます。
精神疾患患者は、それ以外の人より犯罪を犯さない
精神障害者の犯罪率 < そうでない人の犯罪率
精神疾患患者は「何か危険だ」とのイメージが広くもたれていますが、実際はどうでしょうか?数値で見てみましょう。
令和元年の検挙人員総数 192,607
犯罪白書平成令和2年版 http://www.moj.go.jp/content/001333078.pdf
精神障害者等1997人(割合:全体の1.0%)
全国の犯罪のおよそ1.0%は精神疾患患者、もしくはその疑いの人によるものだと言うことです。
(この数値(1.0%)の中には、精神障害者に加えて、警察が「精神障害の疑いがある」と判断した数も入っているので、精神疾患患者による犯罪は、1%未満と考えられます。)
一方精神疾患患者の全人口に占める割合は高いです。
精神障害者の数は全人口の約2%であるとされている
日本精神医学会 https://www.jspn.or.jp/modules/residents/index.php?content_id=7
以上のデータから精神障害のある人の方が、そうでない人に比べて犯罪率が低いと分かります。
再犯率も低い
また再犯率についても動揺の話が言えます。
殺人および放火を犯した精神障害者について、その再犯率はおのおの6.8%と9.4%でした。ところがこれと比較すべく調べた一般犯罪者の同じ期間における再犯率はおのおの28.0%、34.6%と精神障害者の4倍に近い再犯率を示していました。
http://www.kansatuhou.net/60_johonyushu/01_nyumon/02_Q&A6_10.html
つまり、再犯率においても、精神疾患患者は、一般の人に比べて、低いと言うことが分かります。
実は精神疾患患者は引きこもりがちである
「精神疾患の人は、犯罪率も低いし再犯率も低い」と言われても、イメージと違う人も多いのではないでしょうか。ですが、実際に患者さんと話すと、少し分かるところがあります。
例えば、「一番危険なイメージ」をもたれている統合失調症患者さんは、僕のイメージからすると、「奥手な人」が多いです(僕は実習で統合失調症の人を10人程度しか見たことがありませんが)。理由をいかに羅列します。
- そもそも統合失調症の陰性症状で感情鈍麻などがあり、行動量が減る
- 統合失調症患者は、思考奪取や思考伝播を恐れて、そもそも引きこもりがち
これらの理由から、「キケン」というよりは、むしろ「奥手すぎる」イメージです。
他にも精神疾患で有名な、うつ病ですと、そもそも意欲低下があり、犯罪を起こすことも大変です。
以上のような経緯から、「精神疾患患者はむしろ犯罪を起こさない」と考えられます。
精神科疾患と事件と法改正
ですが、時折、精神疾患患者さんも一般の人と同じように、事件を起こすことはあります。そのとき、「精神病患者はキケン」といった誤ったイメージ先行してしまいがちです。過去の歴史や法改正から明らかです。過去の事件と法改正から順番に見ていきます。
1964年・ライシャワー事件
概要
アメリカ大使館門前でアメリカのライシャワー大使が、統合失調症患者にナイフで右大腿を刺され重傷。
社会の反応
- メディア(主に新聞社)が精神障害者に対しての猛烈なバッシング
- 精神科病床を増やせとの社会的論調
- 精神衛生法の改正
精神病床は,昭和40年時点で17万床だったのが、昭和50年には28万床まで増加しています。日本の精神か病床はピーク時で35万床なのでその大半がこの時期に作られたことになります。スウェーデンではノーマライゼーションが推進されていた時代に、日本は逆に、精神疾患患者を病棟に閉じ込める方向に動いてしまったのです。
病床数を増やせと昔叫んでいたメディアが、今や「無駄な病床数は減らせ」と言っているのがなんとも皮肉な物です。こちらのサイトでは事件当時のメディア報道の異常性について事実ベースで書いてあります。
2001年・附属池田小学校事件
概要
精神障害を「装った」犯人が小学生を無差別に殺傷した事件
社会の反応
- メディアにて安易な報道が行われる(この事件で逮捕された男には、精神病院の通院歴があったと報じられる。実際精神疾患が事件の原因ではないとされている。このことが記事冒頭に書いた「精神病者(精神障害者)は危険」、という=偏見を助長した)
- 2003年7月、「心神喪失等の状態で重大な犯罪を行った者に対する医療と観察に関する法律」(心神喪失者等医療観察法)が成立
医療観察法
この事件を機に生まれたのが「医療観察法」ですが、これはほとんど無意味な法律とも批判されています。
医療観察法とは、罪を犯した精神障害者を、特別の治療施設に隔離して特別に治療し、再び罪を犯すことのないようにするという法律
医療観察法.net
最終的には、「附属池田小学校事件」の犯人は、精神疾患が原因で事件を起こしたわけではないとされています。つまり、仮に、医療観察法ができた後に、もう一度この犯人のような人が出てもおかしくないのです。なぜなら、彼自身は精神疾患が原因で事件を起こしたわけではないからです。
この医療観察法は、精神科疾患に対するネガティブイメージを進めただけで、一般的な犯罪の抑止には何にもつながっていないとも言われています。過剰なメディアの盛り上がりや、それに乗じた政治家の活動で、精神科疾患へのイメージが悪化したと言えます。同時期に似た事件のあったスウェーデンでは、理性的なな報道があったこととは対照的です。
2016年・相模原障害者施設殺傷事件
概要
知的障害者福祉施設にて発生した大量殺人事件。元施設職員が施設に侵入して所持していた刃物で入所者19人を刺殺。犯人が事件のおよそ半年前に措置入院していることから、精神障害者の事件性が取り沙汰された。(この措置入院等に関与した医療者が不正していたなどの問題もあった)
社会の反応
- 2017年、厚生労働省が相模原障害者施設殺傷事件を受け「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律改正案」提出・その後も何度が法改正が試みられるが、改正はなされず。
- 措置解除後のフォローアップ体制に関する議論が起きる
措置解除後のフォローアップ体制に関する議論は重要だと思います。ただ、措置入院を変更するのは難しい課題になります。誰でも彼でも、「キケン」だと判断された人を警察や精神科の強制医療によって社会から排除しさえすれば良いのでしょうか?精神疾患の患者含め誰にでも自由権(自由に生活する権利)や社会権(社会から必要な支援を受ける権利)があります。その行動を制限する措置入院については、難しい話で、安易に進められる話ではありません。