今回は「発達障害と治療教育」についてまとめました。
発達障害の意味・歴史・実情(人数)
発達障害の意味
「発達障害」と言えば、なんとなくのイメージはつくと思いますが、その定義は場面によって異なり、かなり複雑になっています。
まず、学術的な場面で「発達障害」というと、以下のような意味になります。
- ICD-10:「心理的発達の障害」もしくは「小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害」
- DSM-Ⅴ:神経発達症
ざっくばらんに書くと「発達期に関する障害全て」が発達障害に含まれます。具体的には以下の3疾患が、「広義の意味での」発達障害の三大疾病になります。
- 知的障害
- 脳性麻痺
- てんかん
ただ、これは行政の場面にいけば意味は変わります(狭義の意味での「発達障害」)。「発達障害者支援法」では以下のように規定されています。(精神科では「小児精神疾患」と言うことが多いです。)
この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。
発達障害者支援法
つまり以下の疾患が「発達障害」と言います。
- 自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害(いわゆる自閉スペクトラム症)
- 学習障害 (LD)
- 注意欠陥多動性障害 (ADHD)
- その他これに類する脳機能の障害(言語障害や協調運動障害など色々)
さらに「発達障害者」についても規定されています。
「発達障害者」とは、発達障害がある者であって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるものをいい、「発達障害児」とは、発達障害者のうち十八歳未満のものをいう。
発達障害者支援法
つまり、発達障害があって、かつ、生活に困難が生じた人を、「発達障害『者』」というのです。発達障害があっても、何の問題も無く暮らしていれば、「発達障害者」とは言いません。(悲しいことにそのような人はほとんどいませんが。)
発達障害の歴史
次に発達障害の歴史についてです。
最初に「発達障害」の言葉が公になるのは、1963年です。母子保健に関するアメリカの法律で、正式な用語として「発達障害(developmental disabilities)」の概念が用いられたの始まりです。(法律分野由来の単語・ここから医学・教育分野に広がった言葉)
「自閉スペクトラム症」などの「疾患の話」はもっと昔からありましたが、それらを統合して「発達障害」という言葉でくくられたのはつい最近なのです。
発達障害者の実情(人数)
発達障害者の人数については文部科学省から発表されています。(日本の特別支援教育の状況について:令和元年のデータです。)
- 特別支援学校に通う子供:約7万2千人(0.7%)
- 特別支援学級に通う子供:約23万6千人(2.4%)
- 通常学級に通う子供:約10万9千人(1.1%)
- 発達障害(LD・ADHD・高機能自閉症等)の可能性のある児童生徒(医師に診断はされていないが複数の先生が疑っている):6.5%程度(「医師に診断はされていないが複数の先生が疑っている」というのはいろいろな問題を抱えた話ですが・・・)
これらを全て合計すると、1割以上(診断が確定していない場合を除けば5%程度)の子供が、何かしらの発達障害を抱えていると言うことになります。
発達障害に対する支援
発達障害に対する支援には様々なものがあります。また年々その対象も拡大してきています。
昔までは、「障害が確定した子供=医師の診断がついた子供」への支援が主でした。また、その中身は「子供」中心の支援でした。
今では「発達障害」の概念も社会に広がり、「障害疑い(診断にまでは至らないが疑わしい)」という子供も増えてきました。そのため、障害が確定しない段階の子供にも、その支援の対象が広がってきています。(親が希望すれば、療育を受けられるようになってきている。)そして、その支援対象は、子供のみならず、家族・地域の支援へと広がっています。発達障害者には、一生を通した支援が必要となることもあり、そのw区組は大きくなってきているのです。
その支援は主に以下の4段階に分けることができると思います。それぞれについて見ていきます。
- スクリーニングによる早期発見
- 家庭等への早期対応支援
- 移行支援
- 治療教育
スクリーニングによる早期発見
発達障害については、なるべく早く見つけて、本人に適した教育を行なうことが重要です。適切なサポートをすれば、発達障害による困難も軽度に抑えられることがあるからです。ただ、発達障害は「明らかな遅れ」が見えるまで発見することは難しいです。
- 知的障害と自閉スペクトラム症は乳幼児期に可能となる(不可能な場合もある)
- ADHDや学習障害(LD)は学齢期での診断が可能となる(不可能な場合もある)
子供が成長すればするほど、診断しやすくなります。発達障害をなるべく早く見つけ出そうという試みもなされています。そのスクリーニングとしては、主に「検診」が用いられます。
「母子健康法」では、①乳児②1歳半③3歳児に健診を行なっています(①は推奨、②③は必須)この健診において、運動発達や言語発達等がチェックされます。
乳幼児のコミュニケーション・言葉の発達・と英才教育について
この検診を用いてスクリーニングがなされています。具体的には「幼児期早期の自閉症チェックリスト(M-CHAT= “The Modified Check List for Autism in Toddlers)が用いられています。(*CHATは1996年にBaron-Cohenが開発したもので広く研究・改善され、信頼されています。)
この段階で「発達障害だ!」と診断に至らずとも、「なんとなく怪しいぞ」と分かっておくことで、早期介入につながるのです。(繰り返しになりますが、診断できてなくても親の希望があれば、支援は受けられます。)
早期支援
発達障害が疑われたら、早期に介入できます。できることとしては以下の者があります。
- 親の発達障害についての理解支援
- 児童発達支援センターでの支援
- 発達教育ファイルによる抜け目ない連続した支援
親の発達障害についての理解支援
そもそも、親が、発達障害について理解しておくことが、子供を理解すること・子供に適切に接することに重要です。親の発達障害についての理解支援としては、以下のようなものがあります。
- 親子教室:発達に遅れや支援の必要な就学前の幼児を対象にした日常行動の確立に向けて療育支援(泉大津市のHPより抜粋)
- 親子通園事業:心身の発達の気になる児童(障がいのある児童を含む)に対し、日常生活における基本動作の指導及び集団生活への適応の訓練並びにその保護者に対する療育上の助言等を行う(西原町親子通園事業委託仕様書より抜粋)
ただ、悲しいことに、これらの支援は、「自治体によりけり」です。地元にいるケアワーカーさんに聞くことが勧められます。
児童発達支援センターでの支援
児童発達支援センターで支援を受けることもできます。児童発達支援センターでは日常生活の自立支援や機能訓練を行なったり、遊び・学びの場が提供されます。
施設の人が、保育所などへ出張し、保育所の人に適切な指導をしてくれる場合もあるようです。
発達教育ファイル
発達教育ファイルは抜け目ない連続した支援を可能にするアイテムです。支援の必要な子供の「成長記録表」のようなものです。(母子手帳の「子供版」といえば理解しやすいでしょうか)
関係機関が発達情報や支援内容を記録してもらい、「今までにどんな支援を受けてきたのか」「どう成長してきたのか」が分かるようになります。こえにより、適切な支援を継続して実施することができます。
移行支援
子供は、いずれ親子関係から一歩外へ出て、友人を持ったり、学校へ行ったりと、社会へ出て行きます。
- 家庭から集団へ
- 就学前から小学校へ(就学へ)
といったように、人生が移行するタイミングがあります。こえもまた、自治体によって異なる活動をしているので、ケアワーカーさんに聞くことが望ましいです。
治療教育
治療教育は、主にLD(学習障害)、ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)など、発達障害の子どもたち(幼児~高校生)を対象にした個別指導です。ことば、コミュニケーション、読み書き、算数、行動のコントロール、社会的スキル、生活スキル、自己認識、などの発達のサポートを目的としています。
白百合女子大学HP
治療教育は、お子さまの全体の様子を観察し、必要な認知検査を通して多面的に評価することから始まります。お子さまの状態とその特徴を把握した上で、保護者の方と話し合い、指導内容と方法を決めていきます。
定期的指導の多くは、月2回、1回50分です。お子さまの特性や興味関心に基づき、楽しみながら取り組める独自の指導プログラムです。
簡単に書くと、「治療+教育」、つまり医療と特殊教育を組み合わせたものです。日本においては、1968年に「夜明け前の子供たち」という映画でこの考え方が広まりました。
その中身は、多岐にわたります。参考ページを以下に貼っておきます。