精神科各論

うつ状態(抑うつ気分)とうつ病

うつ状態(抑うつ気分)とは何か

定義

  • 「今、うつうつしている」
  • 「最近うつだ」

などと気分の落ち込みを表現することに「うつ」という言葉はよく用いられます。精神科臨床の観点で言えば、うつ状態(抑うつ気分)(depressed mood)とは、一言で言うと「理由もなく気分が落ち込むこと」です。(逆に言えば、理由があって気分が落ち込むことは、「うつ」とは言いません。それは正常な心の動きになります。)

症状

「うつ状態」というと、以下のような症状が挙げられます。

  • 抑うつ気分 (depressed mood)
  • 興味・関心の減退 (loss of interest)
  • 食欲減退 (loss of appetite)
  • 睡眠障害 (sleep disorder) (早期覚醒のみならず過眠も)
  • 気力の低下 (fatigue, loss of energy)
  • 罪悪感 (guilt)
  • 集中困難 (concentration problem)
  • 精神運動遅滞 (psychomotor retardation or agitation) (やる気が出ない・やる気を出すまでに時間がかかる)
  • 希死念慮 (Suicidal ideation)

こららをまとめると以下のように書けます。

  • 気分・感情の異常:抑うつ気分
  • 意欲・行動の異常:気力の低下・精神運動遅滞
  • 思考の異常:思考制止・微小妄想
  • 身体症状:食欲減退・睡眠障害・疲労感

「うつ状態=うつ病」ではない

うつ状態を診たときに・うつ病との鑑別疾患

このような「うつ状態」をみたとき、これは必ずしも「うつ病」といえるわけではありません。例えば、以下のような病気でも「抑うつ状態」になります。

  • アルツハイマー病
  • 脳の器質的障害(脳血管障害・脳炎・頭部外傷・脳腫瘍)
  • 正常圧水頭症
  • 内分泌疾患(甲状腺機能亢進症・低下症やクッシング病など)
  • 膠原病(SLEなど)
  • 薬物によるもの(ステロイドやインターフェロン)

これらがおおよそ全て否定されたときはじめて、「うつ病」というものが診断名として上位に浮上します。

全てが「うつ病」といえるわけではない

これらの鑑別疾患が全て否定されたとしても、それでもなお「うつ病」と断定はできません。患者さんを総合的に診て判断することになります。

  • 表情(暗くないか・うつむいていないか)
  • 声(言葉数は少ないか・自発語は少ないか)
  • 体の動き・歩き方など(動きは縮こまっているか)

これらの全体的な印象もうつ病の診断にはかなり重要です。

また、これ以外にも、元々の性格もかなり重要です。たとえば、元々、とても明るかった人が暗くなっていたら、それはうつ病を疑うことになります。一方、元々暗かった人が暗くても、それが元々の性格であれば、「うつ病」とまでは言いがたいかもしれません。

うつ病の治療

薬物治療の代表

「うつ病」と診断が分かったら、SSRI (Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:例えばフルボキサミン・パロキセチン)、SNRI (​Serotonin-Noradrenalin reuptake inhibitor:例えばミルナシプラン)、三環系抗うつ薬(例えばイミプラミン)、四環系抗うつ薬(例えばミアンセリン)などを用いて治療を行ないます。

うつ病治療の際に注意すること

うつ病治療の際に注意しなければいけないことは多数あります。

まずは、「本当にそれはうつ病か?」と言うことです。例えば双極性障害であれば、抗うつ薬は使用してはいけません。(気分の浮き沈みを悪化させてしまいます。)気分安定薬(炭酸リチウム・バルプロ酸・カルバマゼピン)で治療していくことになります。

他にも、抗うつ薬の使用では「アクチべーションシンドローム」に注意しなくてはいけません。これは抗うつ薬の投与初期や薬を増量したときに起きやすいです。抗うつ薬がききすぎることで、気分が高揚してすぐキレたり眠れなくなったりします。最悪の場合では、そのまま突然自殺してしまうこともあるのです(うつ病による自殺念慮への薬だったはずなのに…)。このアクチべーションシンドロームは若い人(24歳未満)に起きやすいとされています。

これの予防のためには、まず、この「アクチべーションシンドローム」のことを患者さんが知っておくことがかなり重要です。「抗うつ薬の飲み始めには、気分が高揚したり、イライラしたり、突然に死にたくなったりすることがあります。そのようなときは、病院にすぐ連絡を入れてください。(or周りの人は、本人がそのような状態になることがあるので、薬の内服初期は注意してみてください)」などと伝えておくことがかなり重要です。