精神疾患の診断は「操作的診断」で行なう
従来診断と操作的診断
精神疾患を取り扱う上では「操作的診断」という診断法を用いられています。この「操作的診断」という言葉を理解するためには、その対になる診断「従来診断」といった言葉と対にして語られることが多いです。
- 従来診断:推定される病因に基づいた分類
例)Aという原因(例えば血液マーカー)があるからAA病である - 操作的診断:現象に基づいた分類。
例)Aという症状があるからAA病である
従来診断はその病気の原因に着目した診断法で、操作的診断はその病気による結果に着目した診断法です。基本的には精神科でよく見られる診断方法です。(膠原病等でも用いられていたりします。)
「操作的診断」を具体的に書くと
操作的診断を具体的に見てみます。例えば、「うつ」と診断するときには、以下の基準にあてはまるものを「うつ」といいます。
うつ病(大うつ病性障害)の診断基準(DSM-5)
精神疾患の診断・統計のマニュアル アメリカ精神医学会 Washington,D. C.,2013(訳:日本精神神経学会)https://www.iidabashi-shinryounaika.jp/20170503234431
以下のA~Cをすべて満たす必要がある。
A: 以下の症状のうち5つ (またはそれ以上) が同一の2週間に存在し、病前の機能からの変化を起している; これらの症状のうち少なくとも1つは、1 抑うつ気分または 2 興味または喜びの喪失である。 注: 明らかに身体疾患による症状は含まない。
1. その人自身の明言 (例えば、悲しみまたは、空虚感を感じる) か、他者の観察 (例えば、涙を流しているように見える) によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。注: 小児や青年ではいらいらした気分もありうる。
2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退 (その人の言明、または観察によって示される)。
3. 食事療法中ではない著しい体重減少、あるいは体重増加 (例えば、1ヶ月に5%以上の体重変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加。 (注: 小児の場合、期待される体重増加が見られないことも考慮せよ)
4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。
5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止 (ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではなく、他者によって観察可能なもの)。
6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。
7. 無価値観、または過剰あるいは不適切な罪責感 (妄想的であることもある) がほとんど毎日存在(単に自分をとがめる気持ちや、病気になったことに対する罪の意識ではない)。
8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日存在 (その人自身の言明、あるいは他者による観察による)。
9. 死についての反復思考 (死の恐怖だけではない)、特別な計画はない反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画。
B: 症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
C: エピソードが物質や他の医学的状態による精神的な影響が原因とされない。
操作的診断のメリットデメリット
メリット=アルゴリズム化された診断:皆が同じ診断に至る
操作的診断のメリットは、「アルゴリズムに従えば誰しもが共通の診断ができる」ということです。つまり、疾患の基準を明確に決めておくことで、世界共通の診断が確立します。
この「操作的診断」のシステムができるまで(およそ1980年頃以前)、精神疾患の診断基準はほぼ皆無で、精神科医の間でも診断基準がマチマチだったようです。そのため、病院によってもしくは医者によって診断が違うこともあったようです。そのような状態だと「OO病にXXという薬が効く」などという話は難しくなります。このような問題を解決したのが「操作的診断」になります。
この「診断基準」ができたことで、世界的に疾病概念が統一され、診断の信頼性がある程度確保されました。
デメリット①客観的ではない
操作的診断のデメリットは「客観的ではない」ということです。つまり、例えば、(精神科以外の)原因に基づいた診断(従来診断)では「血液マーカーが上がっているから、この病気の可能性が高い」というように「客観的指標(この場合血液マーカー)に基づいて診断することができます。
一方、操作的診断にはこのような客観的指標はなく、臨床症状のみに依存して診断を行なうことになります。
デメリット②人は多様性であるはずなのに・・・
もうひとつのデメリットは「操作的診断では人をカテゴリに分けるだけ」ということです。例えば、「統合失調症」と診断されたAさんとBさんは全く同じ症状ではありません。Aさんの方は症状が軽く、Bさんは症状が重いかもしれません。症状ごとに重症度も変わります。そのような、個人間の差異を全く無視してしまっていることが操作的診断の限界点にもなっています。